ひっくり返れば浮き世。

書評を中心とした読書ブログ。評論、小説、漫画、詩歌など、幅広く読んでいくつもりです。

『ワイルドマウンテン』

 なんとも好き嫌いの別れそうな絵柄……。私はこの何とも言えない絵柄に惹かれてしまいました。『ワイルドマウンテン』は『月刊IKKI』という漫画雑誌に、2003年から2010年まで連載されていた作品です。作風も洗練されているとはとても言えないレベルで、読んでる人間は終始じれったい思いをしなくてはなりません。それでも、どうか、最後まで読んでみてほしい。私はけっこう感動しました。作者はイラストレーターとして有名な本秀康。全8巻。

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内容紹介

 主人公はある町の町長を務めます。名前は菅菅彦(スガスガヒコ)。冗談みたいな名前ですが、最初から最後までこのままです。性格は、なんというか、あまり良い大人ではないカンジ。私は、彼に対して、かなり強く引いてしまう場面が多くありました。どぎつい下ネタはどうも不得手なもので……。それでも、色々な出来事が巻き起こるなかでだんだんと彼のことを憎めなくなってくるのです。なんだかんだ、情に厚い人間は嫌いにはなれません。それから、びっくりするぐらいに登場人物の言動がメタメタなのも苦手でした。終始「読者の皆さん!」というような感じで。ここまでくると、読者が物語に没入するのを作者の側から拒んでいるような感じさえあります。そうしたドライなところが、まるでスパイスのように物語全体に効いていると感じました。

 そんなこんなで、最終巻にたどり着くまでに私は、「この漫画はサブカルの残滓みたいな作品なのかな」という所へ評価に落ち着けようとしていました。とか思ってるうちに、最終盤はそんなのが消し飛ぶほど急転直下のシリアスな展開。そしてその締めくくりはこれ以上ないくらい見事で、それまでが嘘みたいに着地が鮮やかでした。油断してただけに、すごく心が揺さぶられた気がします。あまり多くを語るのは悪手かもしれませんね。

感想

 『ワイルドマウンテン』は、見かけによらずブラックな作風というか、事あるごとに下ネタやらメタ発言やらが飛び交います。それもかなりどぎついレベルのやつが。そのせいで、嫌気が差したり興醒めしたりする人も少なくないと思われます。しかし、それらの要素のおかげで、終盤の展開にすべて納得がいくようになっているのです。ふざけてるとしか思えないような、あれもこれも……。すごい力技で、かつ綿密な構成だと思いました。ちょっと好き嫌いが分かれそうなマンガですね。でも、最後まで読めば、きっと登場人物の全員を嫌いになれないはずです。本当に、最後の最後まで読み通せば。