詩情の源泉

「詩歌」をテーマに定めた読書ブログ。

『詩のこころ読む』

 「詩が好きです」と発信すると「どうして詩なんかに興味を持ったんですか?」と聞き返されることが多くあります。情けない話ですが、私はそれにうまく答えられた試しがありません。そういう時は、いつも適当なことを言ってやり過ごしていましたが、なんだかそれも不誠実だな~と最近思うようになってきました。それでよくよく考えてみたんですが、詩に興味を持つきっかけとなる出会いが私にも確かにありました。それがこの本との出会いです。

 この本を読んだのはいつのことだったか……。そこまでは思い出せません。たしか中学生の頃だったような……。でも、この本が無ければ詩に一切興味を持つこともなかっただろうなという確信はあります。これを読む以前と以後で私の読書体験は変わりました。そういう意味で本書は自分の中でとても大きな存在です。忘れていただけで、こんなにも大きな出会いが自分の中にもありました。もしかすると、皆さんにとってもそういう出会いに成り得るかもしれません。是非とも読んでみてください。

 
内容紹介

 本書の内容としては、優れた詩を解説したエッセイという感じです。優れた詩を紹介し、その詩のいったいどういう所がすごいのか、かみ砕いて教えてくれるのです。昔の私にとっては、その内容、というよりは、その語り口の優しさが衝撃的でした。本当に、こんなやさしい言葉だけで、こんなに踏み込んだことまで語れるのかという感じが衝撃的でした。目から鱗が落ちるような。小難しい理屈を吹き飛ばす感覚の世界。その奥深さの一端を垣間見ました。

 詩の評論というのはものすごく難しいものだとされています。そもそもの話、普通は「この詩ってよく分かんない」と言われてもまともな反論なんて出来ませんからね。そうしたなか、ここまで魅力的な文章を綴れるのはすごいことです。解説の前には著者が紹介したい詩が引用されています。本書はページを順番にめくっていくと、詩を見てから解説を読む、という構造になっています。まずは詩そのものに触れて、そして解説を読み、また詩に戻ってきたくなる。著者の解説はそんな文章です。解説を読んだ後だと、まるっきり詩から受ける印象が変わるのが実感できます。

 

感想

 これはあくまで私個人の考えなんですが、同じ読み物と言っても、文芸と詩では「作品の味わい方」が根本的に違ってくるような感じがあります。冷たい食べ物と温かい食べ物ぐらいには違うと思います。それぐらいかけ離れたもののように感じられます。

 たとえば、文芸においては「分からないまま味わう美味しさ」が最上である作品がままあります。初読時のインパクトが一番強く、一度ストーリーが分かってしまうと魅力が目減りしてしまうという感じで。その一方、詩は「分かれば分かるほど美味しい」という旨味が強くあるような気がしてなりません。骨の髄までしゃぶりつくして味わうのが、詩の嗜み方として適しているのではないでしょうか。